電子電界放出モデリングのヒント

Fowler-Nordheim方程式は、金属の表面障壁を通る量子トンネルから生じる電子電流密度を予測します。結果として得られる値は、材料の仕事関数と表面上の電場に非常に敏感です。このシミュレーションにTrakOmniTrak(または他の数値コード)を効果的に使用するには、ユーザー側の注意が必要です。

理想的な状況では、エミッタは既知のクリーンで均質な材料であり、その正確な形状が分かっています。さらに、印加電界の正確な計算のために、先端近傍に高分解能のメッシュを設定します。(このような状況では、BOUNDARYコマンドで微視的な静電解を作成すると便利です)。TrakとOmniTrakは、表面の各ファセットに沿った電界値を計算し(自己無撞着な空間電荷効果を使用)、Fowler-Nordheim方程式を適用し、予測される電流密度を表すモデル電子を放出します。このモデルは、エミッタ上の電流密度の空間分布(すなわちソースサイズ)と軌道の角度発散を与えます。原理的には、このコードは、与えられたパラメータのセットに対する放出電流も予測します。

このシナリオでどのような問題が起こり得るでしょうか?

  • 先端付近のメッシュが粗すぎる場合。リストファイルを確認してください。すべての電流が1つのファセットから来ている場合、空間分解能が不十分です。さらに、電界計算が不正確である可能性があります。
  • Fowler-Nordheim方程式によって予測される電流は、形状の不完全性や表面の汚れによる仕事関数の変動に対して非常に敏感です。この場合、コードによって予測される絶対電流は、実験測定と異なる可能性があります。
  • F-N電流密度は、非現実的な電場(すなわち、先端から原子を引き離すのに十分な強さの電場)の場合、天文学的なレベルまで急上昇します。この場合、コードはクラッシュします。TrakとOmniTrakのマニュアルに記載されている方程式で電界レベルをチェックした方が良いかもしれません。
  • 様々な場合を想定して、フィールドエミッションモデルに、実験条件と一致させるために調節することができるパラメータを入れました。パラメータßは電界増強係数です。表面電界にßを掛けたものが電流密度の計算に使われます。この機能は、表面の不規則性(例:カーボンナノチューブ)による電界増強を考慮したものです。ßの値が大きい場合、Fowler-Nordheim放出が適用できるかどうかは疑わしくなります。高い電流密度の観測値は、爆発的なプラズマ放出の結果である可能性があります。